嘘から始まる恋だった
「それで、彼とは一緒に住んでいたの?」
「いいえ、私は……寮に」
「寮?…一人暮らしはしなかった理由でもあるのかな?」
「……」
この人は、本当にさっきから聞き出すのがうまい。
高くもなく低くもない心地よい声で、聞かれている内容に疑問を持つ事をさせない。
だけど…こればかりは答えられない。
義兄の目が恐ろしくて、目の届かない場所に避難していたなんて…義父も母も知らない義兄の二面性があることなんて言える訳がない。
「……うーん、答えられないか。それなら、彼とは付き合っているのかな?」
「付き合ってないです」
「おっ、即答だね…」
可笑しそうに笑う部長。
「そうか…なんとなく事情は理解できたつもりだ。間違っていたら訂正してくれ…」
コクンと頷く私。
どうして、素直に従ってしまうのだろう…
「専務と君のお母さんがどんな経緯で知り合ったかわからないが、結婚する前に顔合わせを彼としたよね…そこで、彼が君に好意を持った」
「はい…その通りです。その日から執拗に義兄妹になるからといろいろ理由をつけて誘われて、最初は義兄になる人だからと思っていたんですが、ある時一緒に飲みに行ったことがあって、そこで私も油断していたのが悪かったんです…」
聞き上手の部長によって話始めた内容に、どんどん心がついていかなくなり泣き声に変わっていき、次の言葉が出てこなくなる。
「……無理して言わなくていいよ。それから君は、彼を避け始めたんだね」
「……」
涙を指で拭いながらコクンと頷く私の横にいつの間にか部長がいて、落ち着くまで優しく頭をよしよしと撫でてくれる。
「……部長…あの…もう、大丈夫です。ありがとうございます」
「そう⁈もう少し撫でていたかったのになぁ…」
冗談まじりに笑う部長の優しさが心に染みる。
うふふと笑う私の顔を見て、もう一度頭を撫でてくれる。
「……どうして、苗字が違うの?」
「それは、義父がもう大人になるから好きな苗字を名乗って構わないと言ってくれたのでそのままでいました」
「そうなんだね…だから誰も君達が義兄妹だと知らないのか⁈」
「はい…それもあります。私もですが、義兄も誰にも言ってないはずです。私の場合は、彼を義兄とも呼びたくなくて言わなかったのですが、それが逆効果で義兄が私に好意を持っていることが噂になり、誰もが義兄を後押ししてくるようになったんです」