嘘から始まる恋だった
「……でも」
あの部屋に住んでまだ2週間ほどなのに…解約なんてしたら
「麗奈は嫌がるかもしれないけど…麗奈の代わりに蒼さんが住んだらダメかな⁈そうすれば、忙しくなってなかなか会えない彼とも会えるでしょう」
ダメかな⁈と伺いを立てる優香。
優香の気持ちを考えるとノーとは言えない。
「……その方がいいかも」
「ありがとう…麗奈」
私の手を取り喜ぶ優香を見ていると、こっちこそありがとうと言いたい。
私の為に、いろいろ気を回してくれて感謝しても足りないぐらいだ。
「あら、そんなに喜んでどうしたの?」
病室に戻ってきた母が喜ぶ優香を見て首を傾げる。
「あのね…私が今いる部屋、お義兄さんが住んだら優香といつでも会えるでしょう。だから、お義兄さんに代わりに住んでもらうように今お願いしようって話してたの」
「そうなの⁈それならいっそのこと一緒に住んだらいいじゃない。優香さんは蒼さんのお嫁さんになるんだし、今は、忙しいけど…落ち着いたら近くにマンションでも買って一緒に住んじゃいなさい」
母の突拍子もないセリフに苦笑いする優香。
「優香達の考えもあるんだから、押し付けたら可哀想よ」
「そうなの?」
残念がる母に
「いつか、蒼さんとそうなれたらと思ってますけど…この先、どうなるかわからないので…すみません」
何も知らない母にこれ以上言えないからか、優香は期待を持たせないように謝っていた。
その日の夜
病室のベッドで寝ていると、私の手を握る優しい手があったような気がする。
夢の中で、高貴が出てきて微笑んで私を抱きしめてくれる。
『愛してる』
そう言って、優しく唇に触れるキスをして消えた夢。
目覚めた部屋には誰もいないのに…私の手のひらと唇に残る感触が現実のものなのか、夢だったのかわからなくする。
そんな日が退院するまで毎日続き、家に戻ってからは消えてしまった感触。
夢の中だけでも、高貴に愛されている喜びを感じていたかったのに…
自分で手放した幸せなのに、虚しさが募る。
家に戻ると私と入れ違いに義兄さんが出て行った。私に配慮して顔を合わせる事もしなかった義兄の行動に、少しずつ気持ちの整理がついてきたのかもしれない。
そして、忙しくしている義父とも朝顔を合わせるが、ジジバカ全開で赤ちゃんの事を話していても高貴の事にふれることはなかった。