嘘から始まる恋だった
私が、高貴と別れた本当の理由を知らない。
お義父さんにしたら、高貴は約束を反故にした憎い奴なのだろう⁈
たまたまリビングのテーブルに置いてあった経済誌に、若き専務として高貴が取り上げられ、婚約間近と書いてあった。
わかっていたことだけど…
自分で望んで別れを選んだけど…
高貴なら
もしかしたら私を選んでくれると淡い期待も…壊れた瞬間。
義父が私の手から経済誌を奪い
「こんなもの見なくていいよ」
と言ってゴミ箱に捨てた。
ショックなのに…
高貴の夢が叶うと喜んでいる自分もいて複雑な私。
そんな私に気を使って
「麗奈ちゃんは必ず幸せになれるからね」
目の前で、微笑んでいるお義父さんがいた。
「……ありがとう。この子と幸せになるからね」
お義父さんに心配かけたくないから、笑顔を見せた。
「うん…もう少しだからね」
意味ありげな言葉に『ん?』と疑問が浮かぶけど、深くは考えなかったのだ。
きっと、会社を立ち上げる目処がついたのだろうと思っていたから。
その考えの通り、数日後に101ビルの10階を買い取って設計事務所を構えたのだ。
『自遊空間 設計事務所』
大和建設時代の部下を何人か引き抜いたと同時に、仕事も取ってきて立ち上げたばかりの会社なのに、既に幾つかの依頼がきていて、大和建設が欲しがっていた某私立高校の設計を義父の会社が勝ち取ったのだ。
なんの実績もない会社なのに…
どうやって?
と疑問も浮かぶ。
でも、義父の斬新な図案は飛鳥建設の飛鳥社長の折紙付で、義父は自慢気に祝いの席で私に言っていた。
飛鳥建設⁈
そうなんだ…
飛鳥建設の後ろ盾があるから、なんの実績もない会社に大きな仕事が舞い込んだのだと疑問が消えた。
バックに飛鳥建設がいれば、義父の会社も安泰だろう。
小さい会社とはいえ、大和が欲しがっていた仕事を奪った形になったのだ。あちらは、元大和建設の専務だった男が作った会社だからこそ余計に面白くはない話だろう。
受付だった私でも、飛鳥建設と大和建設がライバル会社だというのは知っている。
だから心配なのだ…
「お義父さん、大和建設を敵に回して大丈夫なの?会長を怒らせたら仕事できなくなるんじゃ…」
「あぁ、心配ないよ。大和会長はうちには手を出してこれないようになるからね」
あははは…と豪快に笑う義父に不安しか浮かばなかった。