旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
夢中になって会話を弾ませていたけれど、ふと衝立の影に人の気配を感じて声を潜めた。
もしかして藤波が探しに来たのだろうかと思い、「ごめん、ゆーちゃん。そろそろ時間みたい」と慌てて通話を終えると、私はおそるおそる衝立の向こうを覗き見た。
けれど、すでにそこには誰もおらず。階段から繋がる廊下の奥から、早足で歩く革靴の音だけが微かに聞こえた。
――やば。誰かにはしゃいでる会話聞かれちゃったかなあ。
ちょっと気まずく思いながらスマホを握りしめ控え室に戻ったけれど、元から楽観的な性格ゆえ、部屋に戻り藤波のお説教を聞く頃にはそんな反省も忘れてしまっていた。
それからすぐに結城の執事が部屋に来て晩餐会場の部屋へと通される。二百平方メートルは悠に超えるだだっ広い部屋はフランスアンティーク、アンリ二世様式の装飾で統一され、茶褐色したジオン材の腰壁が重厚な雰囲気を醸し出していた。
天井には大きな楕円形のフラスコ画。そこから垂れ下がるのは何千個と云うクリスタルとゴールドを使われた巨大なシャンデリア。おおよそ日本で1,2を争う豪奢なホテルの個室だろう。
そこの中央に位置するテーブルに案内され、私はヤギ革張りの肘掛け椅子へと座らせられた。
「間もなく颯さまが参ります。お待ちください」
そう説明され、だだっ広い部屋には私と藤波、結城の執事たちが数人、言葉も漏らさず待機することになった。