旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
齢二十三歳の私が四十七歳の藤波の足を撒くなどたやすいことなのだ。たとえ京友禅の七百万の振袖を着てたとて、このかもしかのような足払いに支障はない。
まんまと藤波を撒いた私は、階段のホールにある型染めの屏風にこっそりと身を潜めながら通話を再開させることにした。
「そうなの、これから例の婚約者と顔合わせでさー。すごく憂鬱だよ~」
相手が大親友のゆーちゃんということもあって、私はストレートに心情をぶちまける。彼女はとある大病院のご令嬢で、学習院の中等科からの長い付き合いだ。
お嬢さまとは思えないほど気さくで明け透けな性格な彼女といると実に心地いい。そんな風にゆーちゃんに絶対の信頼を置いている私は、彼女に秘密の恋心まで暴露していた。
「あーあ、今さらだけど政略結婚なんて嫌だなあ……好きな人と結婚したかった」
大きな溜息と共に吐き出せば、ゆーちゃんはこちらの気持ちを察してくれる。
『それって、例のコンビニで会ったズッキーニ紳士?』
ズッキーニコーラが縁で出会ったイケメン紳士なので、私たちは彼のことを略して“ズッキーニ紳士”と呼んでいた。もちろん敬愛を籠めてである。
「そう。生まれて初めての恋だったのに、もう二度とあの人には会えないし結ばれることはないんだと思うと、切なくて涙出ちゃう。もしあの人がここに現れて、私をさらってくれたらいいのにって、何回も想像しちゃった」
『やーん、まなってばロマンチック!』
「でしょ、でしょ! 私、超~乙女だよね、映画のヒロインみたいだよね!……ん?」