旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~

あまりにも無神経な言葉を発してしまったと、私はすぐさま反省をした。颯にとって充さんと比べられ貶められることは、おそらく一番の禁句だ。

「あの、えと。ご、ごめんなさい。言い過ぎた」

けれど、颯は冷ややかとも言える不機嫌な表情を消すことなく私に背を向け、食堂を出て行こうとする。

そして、扉のノブに手を掛けると焦る私の方を見やりもせずに言った。

「お前が誰を好きで誰と結婚したいかなんて関係ない。これは両家の利益のために絶対覆せない結婚なんだからな。泣こうが喚こうがお前は俺の妻でここからは逃げられない。それを忘れるな」

低く響いた声に、私の胸が泣きたくなるほどズキリと痛んだ。

分かってはいたことだけど、この結婚に愛なんかなくって私も颯も家のために仕方なく結ばれるだけだって、改めて突きつけられた気がして。

そして、さっきまでの颯の優しさは単なる義務感からだったのだと、今さら気付かされる。

こちらを振り返ることもなく颯は部屋を出て行った。ひとり残された私は唇を噛みしめて彼の去っていった扉を見つめ続ける。

「……馬鹿みたい。颯は渋々気を使ってくれてただけなのに、勝手にときめいたりして」

自嘲の嘆きは、ポツリとひとりぼっちの食堂に落ちて消えた。


婚約者と出会ってまだ三日。
けれどこの結婚、前途多難な予感しかしない。
 
 
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