旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~

「……悪かったな、兄貴じゃなくて」

低く呟かれた声に、私はハッとして自分が言い過ぎたことに気付いた。

今までしょーもないケンカは繰り返してきたけれど、こんなに真剣に怒っている颯の顔は初めて見た。


――結城コンツェルンは一族経営の絶対世襲制だ。本家の長男が総会長に就きいずれは全権を担うことが決まっている。

本来ならそれは充さんの役割で、彼は生まれついての後継者として期待され手塩にかけて育てられたのだろう。

それなのに一年前、急遽充さんは健康上の都合で継承権を放棄した訳で。

期待されていなかったはずなのに、いきなり次期総会長の座に就かされた颯はどんな気分だったのだろう。

きっと充さんと比べられ、周囲を落胆させないために必死だったに違いない。

『やっぱり充じゃないと駄目だな』

きっと、そんな台詞に怯えながら――。
 
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