旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
「うん。考えてみたら颯は仕事終わってから会食に参加してるんだもん、そりゃ疲れてるよね」
毛布を受けとりそれを颯に掛けながら言うと、さやかはニコニコとした表情を崩さず声を潜めて話した。
「それもありますけど……颯さまも今日は緊張してらしたんだと思いますよ」
「颯が? どうして?」
今日の会食は彼にとっては実家で家族と過ごしたにすぎない。そんなに気負うことなどなかったように思うけど。
不思議に思って尋ねれば、さやかはどこか楽しそうに肩を竦めて答えた。
「今日の颯さまの役割は、初めて一族の皆さまと顔合わせする真奈美さまを完璧にリードし、フォローすることですから。真奈美さまに不快な思いをさせないよう、完璧な紳士に徹しようと颯さまも張り切られていたんですよ」
――颯が? この生まれついての王子さまで、紳士としての所作に一片の隙もない高飛車な御曹司さまが?
さやかの言うことがにわかには信じられず、私は思わず目をパチクリさせてしまった。
けれど彼女はそんな私を見て、ますます楽しそうにクスクスと笑って言う。
「真奈美さまといるときの颯さまはとても張り切っておられますよ。どんなお立場の方でも、好きな女性の前でカッコよくいたいと背伸びされるのは殿方の常ですから」
「好……っ!?」
さやかの言葉に驚きの余り大声を出しそうになったけれど、すぐ側で寝ている颯を起こしてはいけないと慌てて口を手で押さえた。