旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
やや不安にはなってきてしまったものの、今さら計画を中止するほどヘタレではない。私はポケットの中でこっそりと藤波のくれた端末を握りしめると、窓の外の曇り空をキッと見据えた。
銀座の一等地に建つドレスショップは、古典様式を模した風格漂うデザインでありながらモダンなスタイリッシュさも兼ね備えた建物だった。
リムジンのドア前から店の入口まで従業員がずらりと整列し頭を下げて私たちを出迎える。車を先に降りた颯は私の降車時に手を差し伸べ、そのまま自然な形でエスコートした。ケンカをしてても紳士として最低限のマナーは守るようだ。エライとは思うけど、逆に彼の義務感も感じてしまうので面白くない。
店内に入れば目に眩しいほどの純白のドレスで溢れ返り、ところどころに飾られているブルースターやデルフィニウムの青いブーケが清楚な印象を際立たせている。
正面の壁にあるアンティークな振り子時計に目をやれば、針は13時30分を指していた。予定決行まで、あと三十分。
エスコートしていた颯が離れ、私はショップオーナーが勧めるがままにドレスの試着を進めていく。怪しまれないようにドレスに目移りしはしゃいでる風を演じた。
そして二着目のドレスを試着した私は、鏡の前で自分の姿を見ながら呟く。
「これ、すごく可愛いなあ。でも、重なったレースが影になってちょっと重い感じがする」