旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
それを聞いたショップオーナーはすぐさま笑顔で私に進言した。
「そんなことございませんよ。とても明るくてお綺麗です。試着室のライトですとどうしても自然光のときと印象が違って見えてしまいますからね。よろしかったら、中庭にガーデンウエディングと昼用のチャペルのロケーションもご用意してありますので、そちらで確認されてみますか?」
――計算通り。
私は思わずニヤリと不敵な笑みを浮かべてしまいそうになるのを堪えると、いつものラグジュアリースマイルを顔に張り付かせて「ぜひ」と頷いて答えた。
――ウエディングショップはコの字型になっていて、中央にガーデンウエディングを模したセットが用意されています。つまり、ここは屋外。いくら結城の警護とて、銀座の上空からの奇襲には備えていないでしょう。
浅葱家の執事の中で最高に頭の切れる計算高い男、藤波は昨夜そう言った。
ウエディングショップの構造から、私をさらったあとのルートまで緻密に計算した彼の計画が発動するまで、あと五分。
ショップオーナーに中庭へ連れられながら、私は心臓を高鳴らせる。不審にならないようさりげなく周りに目を配れば、生垣に隠れたショップの裏手側に、藤波の言っていた『裏道へ繋がる建物と建物の隙間』が確認できた。
――よし。全部藤波の計算通り。あとは……計画が発動するのを待つばかり。
緊張でドキドキとうるさい胸を押さえながら、ちらりと店内に視線を向けた。硝子の扉越しに、颯が待合席のソファーに座ってるのが見える。
彼を欺くことに胸がチクリと痛んだけれど、それを振り切るように私は空を仰いだ。
――そして。