i wish i could FLY
厄介な客


我に帰った奈緒美は、首を振ってカートを押した。頭痛のせいで遠出をする気にはなれなかったけれど、食糧がないと困る。

最寄りの地下鉄でダウンタウンのある駅に行くのを諦めて、重い頭を引きずりながら、家から一番近いスーパーに出かけたのだった。

目に付いたシリアルをとって値札を見る。
店の違いでこうまで変わるか、と奈緒美は溜息をつく。明らかに定価である。周りに他の食料品店がないせいで、値下げというものをしないこの店は、いつも買う店より2割は高い。

想定外の出費だ、と昨日の自分を軽く恨む。多少高い買い物をしても赤字にはならないくらいの給金はもらっていたが、予定が狂うというのは割に腹立たしい。

しかし、昨日の出来事のあとでは、こんな目に遭ったとしても暫く飲んでいなかった酒を二日酔いするまで飲んだのは仕方がないことだったと思っている。

酒で忘れたいと思う程悔しく、腹立たしい出来事だった。あまり物事にこだわらない奈緒美にしては。

低カロリーと銘打ったシリアルを幾つかカートに放って、野菜のコーナーへ行く。食べた気がしなくてあまり口にしようと思わないシリアルだったが、今日のことがあってはできるだけ日持ちをして非常食になるようなものがあったほうがいい。
冷凍焼けした米は相当酷かった。そのせいで奈緒美の二日酔いは悪化したと言ってもいい。果ては暫く感じていなかった気持ちまで起こり。

レタスを持った手に力をいれてしまい、ぐしゃりと指が食い込む。また溜息をついて、カートに放り、いつも買う通りの野菜をどんどん入れていく。野菜の値段は日本と変わらず高かったが、何より優先すべきはこの体である。

栄養のあるものを食べなければ、滑らかな肌質は保てない。サプリメントは補助でしかないのよ、といったのは日本にいた時の先輩の言葉だ。字義的にも、でしょうね、とツッコミを入れたくなる台詞だったが、妙に頭に残っている。

< 17 / 24 >

この作品をシェア

pagetop