彼は私を抱き締めた。
彼は私を抱き締めた。




朝1番、社の誰よりも早く訪れたはずの私を待ち受けている影。

それは、優しい彼。



「おはよう」



心臓にまで響くような低い声は、どこか柔らかくくすぐられているみたい。

こくりと頷いて、私もおはようございますと返す。



わざわざ1階で待っていてくれたことに自然と頬が緩む。



エレベーターに乗りこんで、3階のボタンを押す。

中は、私と彼のふたりきり。

つかの間の大切な時間。



「今日も早いね」

「そんなの、私より早く来てたあなたには言われたくないです」



そう返せば、彼が嬉しそうに声をあげた。



「そりゃ、ふたりきりになれる貴重な機会だからね。先に来て待ってるに決まってるよ」



からかうような響きにカッと頬が熱を持った。



「冗談ばっかり」



……ああもう、そういうところ、ずるい。

余裕綽々でからかってきて、それなのにそれが嫌じゃない。心地いいと感じている。



「俺は本気だよ」



そう言った彼が、私を優しく包みこむ。

じわりとブラウス越しに伝わるそのぬくもりが私に吐息をこぼさせる。






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