才川夫妻の恋愛事情
プレゼンに行ったメンバーでランチに寄って、そこそこ有名なステーキ屋さんでささやかに打ち上げをした。今日のプレゼンのために昨晩深い時間まで残っていたのは松原さんと私だけじゃない。下のフロアで最後まで企画の細部を詰めてくれていた人がいる。
「え、松原さんて学生時代神谷さんと付き合ってたんですか……?」
「そう、ついこの間まで葉山を入れての泥沼三角関係か⁉︎ なーんて言われてたのになぁ」
「知らなかったです……」
〝私聞かされません!〟と遺憾を訴える顔で松原さんを見ると、彼女はふん、と澄ました顔。ナフキンで口を拭いていた。
「そんな大昔のことは忘れました」
「あ、今は薬品会社の主任といいかんじなんだっけ?」
「それも初耳です……!」
「野波食いつかなくていいから。あと、それも昔のことです」
「……」
なんだかあんまり触れてはいけないところらしい。私のトレーナーは地雷が多い。
「……咬ませ犬はもう勘弁だわ」
「……」
松原さんが小さくそう呟いたのをばっちり聴き取ってしまって、私は、松原さんと自分は似たもの同士なのかもしれないなぁ、とそんなことを思った。
「あ、松原さんお肉焼けてます!」
「馬鹿ねまだよ。ミディアムウェルまでは待つの」
豪華なステーキランチに舌鼓を打ちながら、他愛のない会話を楽しむ。
いつもならこういう場所で何よりも才川夫妻について尋ねるところを、今日はそうしなかった。