才川夫妻の恋愛事情



才川さんは抑えた声で話す。



「誰かに様子見てこいって言われた?」



私はこくりと頷く。



「変な噂流れてるもんな。真面目に働いてるのに、心外だなぁ」

「……真面目に?」



ちらりと、彼の肩口であどけない顔をして眠る花村さんに視線を向ける。才川さんはそれに気付いて、〝あぁ〟と。



「かわいいでしょ、俺の奥さん」



そう言って自分の肩に寄りかかる花村さんの前髪に唇を寄せる。……いつものわざとらしい演出だ。そう思うのに、こっちがちょっと恥ずかしくなってしまった。



まずい。



「……冗談に聴こえません」

「野波さんは勘が良さそうで怖いなぁ」

「ほんとに、最初にご挨拶したときから冗談に思えなかったんです。どうしても他人に見えないっていうか……」

「夫婦は他人だよ」

「……ん?」



今なんて? と問い返そうとして、できなかった。

才川さんが花村さんの前髪に唇を寄せたままで優しく目を細めたから。






あ。



やばいやばいやばい。



待って。そんな顔しないで。





だめ。




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