才川夫妻の恋愛事情
そんなことを頭で考えながら〝よしっ〟と両手を握りデスクを見渡す。溜まっている書類はどれも処理が簡単なものばかり。時計をちら見する。ただいまの時刻、午後三時半。よし。六時には会社を出よう。そして今日は、スーパーに寄って才川くんの好きなものを作ろう。
心に決めて、それとなーく今日何を食べたい気分か訊きだそうと、隣のデスクを向く。
「才川く……」
呼ぼうとして、やめた。
左隣を向くと、見えたのは才川くんの背中と椅子の背もたれだった。私に背を向けて彼は今、人と話しているところ。
前言撤回。
一件落着。ただし一難去ってまた一難。
才川くんと話しているのは、若くてかわいい新入社員。
「……飲みに? 俺と?」
「はい」
「サシで?」
「サシでお願いします!」
意外にも体育会系なノリで野波さんは力強く言った。やわらかなボブヘアーのふわっとした容姿とは少しイメージが違う。だめです。だめだめ。才川くんこういうギャップ、嫌いじゃないから……!
うるさい頭の中を無理矢理黙らせて、私は視線を才川くんの背中から剥がしてデスクの書類に戻す。無になろうと念仏の代わりにこの後の作業工程を唱え……ようとしたけれど耳が会話に引っ張られる。
「了解。じゃあ、七時頃に出るか」