才川夫妻の恋愛事情


考えが読めるようになったのは、
いつから、
どうしてなんだろう。



*



「結婚記念日のやり直しを要求します!」



ある休日のリビングで高らかにそう宣言すると、才川くんは朝食のトーストを齧りながら私の顔を見た。



「やり直し?」

「そうです」



結婚記念日は3月18日。大学の卒業式の日。

毎年近くのレストランで食事して過ごしていたのに、離婚届事件のせいで記念日は流れてしまった。そのまま春が来て、結局仲直りしたあとも残業が続いたり、会社でのプロポーズがあったり妊娠が発覚したりで、バタバタしてる間にやり直すタイミングを逃し続けていた。

そしてもうすぐ夏がくる。

今更かなぁとも思ったけれど、時間が経つにつれて気になってしまってついに今日。宣言することにしたのだ。



「やり直しって……飯行くの?」

「ご飯でもなんでも。とにかく、結婚記念日らしいことがしたいです」

「結婚記念日らしいことってなんだ」

「うーん……」



別に何か具体的な案があったわけじゃない。

とにかく結婚記念日がしたかった。



珍しく強引に、我が儘を言うように、私が。結婚記念日のやり直しを要求した理由。



「……あのさ」

「はい」

「そんなに心配しなくてもいいと思うぞ」

「……何をですか?」



もうそんなに熱くないはずのコーヒーに慎重に口をつけて目を伏せた才川くんは、たぶん気付いている。

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