才川夫妻の恋愛事情






「子どもが生まれても、俺はみつきのことみつきとして見るし」

「……」

「触りたくなったら触るし、抱きたくなったら抱く。別に何も変わらないから」







「だから心配しなくていい」と言って、それから「ご馳走さま」と言って、お皿とマグカップをシンクへと運ぶ。合わせて私のものも一緒にさげてくれる。私はテーブルについたまま、じっとその表情を目で追った。



「……いつでも自分がしたいときにできると思ってるでしょ」



シンクに水が流れ出す。洗い物を始めた才川くんの背中にそう悪態をつくと、彼が笑う気配。



「違う? 俺がしたくて、お前がその気じゃないときなんてあったか?」

「……ないです」

「ほら」



ひどい言われようだ。くたりとテーブルに突っ伏す。
なんて都合のいい女……自分のちょろさが恨めしい。でも事実そうだと思ってしまった。きっと私は彼に迫られるたびに、なんだかんだ言っても嬉しい顔をしてしまっているんだろう。

出産が近づくにつれ〝女として見てもらえなくなったらどうしよう〟なんて不安が頭をもたげるのも。いつまでも構ってほしい気持ちが私にあるからだ。



私ばっかりかーい、と小さな不満を持って広い背中を見つめていると、小さな声が聞こえた。





「心配なのはこっちのほうだ」




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