才川夫妻の恋愛事情



「ごめん、何だっけ?」

「褒めたのに! 〝花村みつき〟って、音も字もすごく綺麗だねーって。結婚したら名字変わっちゃうの勿体ない」

「えっ」

「え?」



結婚という言葉にビクっと反応してしまう。はやまんの奥で才川くんが振り向く気配。でもそっちをきちんと見ることができない。見てしまったら顔でバレてしまうだろう。私は適当な話でごまかす。



「……結婚したからって、名字が変わるとは限らないよ。旦那さんが変える場合もあるだろうし」

「あぁ、たしかに。うん……。みっちゃんは花村が似合うから、旦那さんになる人に変えてもらおう!」

「ありがとう。そんな相手ができたら考えるね?」



茶化して笑いながら、ちらりと才川くんのほうを見た。もう前に向き直っていて後ろ姿しか見えない。今、何を思っただろう。……私の名前、〝才川〟は似合わない? 今すぐ才川くんに訊きたかった。会社で旧姓を名乗っていると、自分が才川みつきになったんだってことも忘れてしまいそうで。







会社でもどかしい思いをする一方で、家では甘い新婚生活が……あったらよかったのにね!
六年経った今と変わらない。やっぱりあの時、だだをこねてでも二台置くのは阻止するべきだったんだ。部屋に二台もあるそれが、私たち夫婦をなんとなーく阻んでいた。

才川くんが、学生時代の貯金で無理して二台買ったというベッド。

そこ、無理する必要なんてあるの? と訊いても、彼はあるよと答えるばかり。



「……」

「……ん? なに、みつき」



研修期間中のとある夜に。
私は我慢の限界で、才川くんのベッドに潜り込んだ。後ろからぎゅっと抱き付く。身動きが取れなくなるほどぎゅっと、パジャマを着たその背中に。



「どうした」



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