第2巻 Sicario〜哀しみに囚われた殺人鬼達〜





side:ギフト
とある一般街の児童保護私設。其の地下。
ゲームでありそうなマッドサイエンティストの部屋を模した空間に僕は居た。
正確には、デスクワーク用の椅子の上に、大きい体を精一杯縮めて座っている。体育座りと言った方が解りやすいだろう。
雰囲気でも楽しもうと、白衣を着ているわけだが、正直言って何にもなりはしない。

つい先程、被験者の子共が発狂して“駄目”になった。
暇潰しに頭を金槌で叩き割ったが、一撃で終わった。動かない肉を引き摺って、丁寧に処理をしてやった。
周りで他の子供が叫び泣いていたが、何をそんなに喉を枯らす事があるのだろうか。
もう、人間として駄目になったから、終わらせてあげただけなのに...。

施設にいた時と同じ様にしただけなのに、五月蝿い原因が居なくなって清々しいとは思わないのか。

嗚呼、もしかして僕が人と違うからかな。でも何が違うんだ。
僕には感情がある。好きな事もある。勿論、嫌いな事もある。大嫌いな奴もいる。
唯痛覚を失ってしまっただけで、後はなんら変わりない。


「考えるだけ、馬鹿馬鹿しいや...。」

「あんたにしては、らしく無い顔だね。」


アルト調の柔らかな女の声だ。
声へと視線を向けると、暗い赤毛で長く、ボサボサしている髪に、両足、左腕に義足、義手、成人女性の平均身長よりやや低めの背丈。
彼女は僕が雇っている傭兵。
紫香楽 縷縷(シガラキ ルル)だ。


「ルルゥゥー!!!来るなら言ってくれれば、良かったのに!!」


椅子に座った状態で、ルルに両手を伸ばす。
どんなに憂鬱な気持ちになっても、ルルを見ると何故か気が晴れる。
今回も同様にだ。


「やっぱ、何時も通りだった。心配したぼくが馬鹿らしいや...。」


乱れている髪を掻いて、ルルは後悔の表情を見せた。


「君が僕を心配してくれるなんて、如何したんだい?」

「いや、だから心配してないって...」

「まあ、良いさ。こっちに来なよ。
ほら、僕が抱き締めてあげよう。」

「キモい...。」


本気で嫌がられているが、何時もの事だ。其れに、これはスキンシップの様なものだから、ルルは本心で嫌っている訳では無い。
唯、本気で嫌がっているだけ。


「其れにしても珍しいね。君が連絡無しに来るなんて...」

「絶対連絡しなきゃいけないって事は無いから良いだろ。」

「最初は律儀に連絡くれたのにね〜。あーぁ、あの頃が懐かしいなー。」


瞳を細めてルルを見る。
椅子に体育座りしているが、其れでも尚、僕の方が背が高い。
僕の身長が高いのか、果てまたルルが小さいのか...。身長の話は大事では無い。
僕が伝えたいのは、僕がルルを若干見下ろす形になっていると言う事だ。
回りくどいって、セルリアに言われそうだけど、ただ単に伝えるよりちょっとは語彙を増やして、意地悪く伝えてみた方が面白いだろ。
勿論、面白いのは伝える側。つまりは僕だ。

ルルは慣れているので、僕の言葉は8割方流しているだろう。
僕の周りには、狂信者的な思考の持ち主が溢れ過ぎていて、特に僕を信仰対象にしている奴が多い。
だから、ルルの様なタイプの人間は珍しく新鮮で、とても興味を惹かれる。

珍しいモノには誰だって興味を持つ。
現在の僕にはルルが其れに値する。
捨てる気にもならない。飽きない。飽きが来ない。
ルルが僕を訪ねてやって来た時も、普段なら適当に扱うのだが、ルルは何故かそうしなかった。
無意識だ。気が付くとルルに対して提案し、対応し、挙げ句の果てに雇っている。
最初は僕の頭が、とうとうおかしく成ってしまったと思ったが、しっかり思考活動が出来ている事を確認出来た。
とても不思議な気分に陥った。


「...別に良いだろ。そんな細かい事...。」

「大丈夫だって、君が僕を信頼してくれているって事だよね。照れなくても良いってば〜。」


ルルには何故かこの様に、少々子供地味た行動に取りたくなる。
何時も子供地味た行動はとってないよ。とっていると思っているならば、其れは受け手の勘違いだ。

僕はルルといる時だけ“僕”を演じる事が出来る。
いや、唯一“僕”でいる事を、僕自身が無意識に許している。
あとの僕は受け手が僕だと認識ている“僕”を僕が勝手に演じているだけ。

もしかしたら、セルリアには無意識に僕自身になっているのもしれない。
セルリア限定でそう言うのは、セルリアが僕にとって特別な存在だから。
理由は述べない。他人が知らなくても良い理由だからだ。



「変な解釈しないでよ。ホント、気持ち悪い。」

「そんなに嫌わないでよ。さ、おいでよ。」

「ぼくが其の腕の中に入る事は、決定されているの?」

「嫌じゃ無いだろ?」


自信を持って僕は言った。勿論、笑顔付きで。
笑顔は大切だろう。しかし、僕の笑顔はしばしば気持ち悪いと言われがちだ。
初めて会った時、ルルにも言われ、セルリアには定期的に言われている。
本当、人の気も知らないで...。
まぁ気にしてないけど。
だって気持ち悪いってのは本当の事だろう。

作り笑いを気持ち良いと称す人がいるのか。感服する程自然な笑みならば、僕だって拍手を見舞うよ。
“笑顔なんて表情に無駄な時間を使って尊敬するよ”ってね。
笑顔なんて受け手が“笑顔”と認識すれば作り笑いでも充分なんだ。

ルルは一向に僕の腕の中に入ろうとしないので、痺れを切らした僕は椅子から立ち上がり、自らルルを腕の中におさめた。
言葉ではそれとなく嫌がっていたルルだが、腕の中におさまっても抵抗する事は無かった。


「欲求不満なの?」

「大丈夫。そういう処理はちゃんとしてるからね。」

「そういう報告はいらないね。」

「唯、君を見るとこうしなきゃいけないって思うんだ。一種の義務だよ。」

「ぼくを義務の1つに入れないで欲しいな。」


そういう割りに、ルルは僕の腕を掴んでほんの少しぶら下がっている。
ルルの本当の体重は其れ程無いが、付けている義手義足が重い。
だが、抵抗しない。ルルの数少ない甘え、所謂デレなのだから。
女性...特に年下の女性にデレられるのは、男として素直に嬉しい。


「義手義足の具合は如何だい?」

「んー...右脚が少し痛むかな...。」

「其れを早く言ってよッ!!痛みを放置するのは体に悪いだろ!!」

「元は其れを言う為に来たんだよ。」

「呑気事言ってないで、もう!」


腕にぶら下がっているルルを、強制的に横抱きにして、診察台に運んだ。


「あんた、此処の子供達にも、こう言う態度とったら?」

「何でだい?」


鼻で笑って言う。


「子供だからでしょ。」

「子供だからって、そうされるとは限らないよ。
其れに...“アレ”は僕の囁かな玩具なんだ。」

「ぼくは、あんたのそう言う所大嫌いだよ。」

「大半が君と同じ意見を言うだろうよ。
僕は特にこれと言った事は感じないけど...。」


腰を降ろしてルルの義足を見ていると、僕の後頭部にルルが腕を組んで頭を乗せてきた。
視界が少し暗くなる。


「ルル、如何したんだい?」

「あんたが...ぼくだけ特別扱いするから、其れが...何か、嫌だ。ぼくは特別じゃないよ。」

「特別、ね...。」
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