上司、拾いました
 三階の三〇四号室が東間さんの部屋だった。

 ということは、昨日は二階と三階を間違えたのだろう。

 そんなものを間違えてしまうだなんて、お酒の力って怖い。


「一度鞄を置いてから引き取りに来る。ちょっと待っててくれ」
「はい」


 鍵を開けてからそう言う東間さんの言葉に頷くと、造作もなくチョコレート色の扉が開かれる。

 間取りはうちと変わりないはずなので、私の立っている位置から見えるのは、玄関と廊下ぐらいだろう。

 それでも少しわくわくしながら東間さんが暗い室内に電気をつける様子を見て、その場に静止する。


 玄関にはいくつものゴミ袋(中身あり)。

 床はろくに掃除した形跡が見られないほど埃が溜まっている。

 そしてなぜか廊下に積み上げられている無数の本。

 極め付けに、東間さんがリビングの扉を開けた時、相当にとっ散らかってしまっている室内を目撃してしまった。


 まあ、そうだろうなとは、思っていたけれど。

 東間さんは、料理掃除自宅の管理ができない――生活力ゼロの人なのかもしれない。

 職場のデスクはいつも綺麗で身なりも整っているのに、どうしてなんだ。


 そう心の底から思いつつ、こういう時に世話をしてくれるだろう恋人の存在の有無が気にかかった。


「悪い、待たせた」
「東間さん、恋人とかいないんですか?」


 鞄を置いて戻ってきた東間さんへ、至って真面目にそう尋ねる。

 するとその人は「はあ?」と訝しげな表情をして、こちらを見下ろした。


「今はいないが、それがなんだ?」
「……そうですか」
「どうしてお前が残念がる」
「いえ、別に」


 そうか、世話をしてくれる人間はいないのか。

 でもこの人、こんな調子で暮らしていたら、いつか本当に体調を壊すだろう。


 眉をひそめてトレーを受け取る東間さんを見上げつつ、軽い気持ちで「あの」と言葉を繋げる。


「これからご飯、作らせてもらえませんか」

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