上司、拾いました
第2章

日常、ちょっと変化する

「あ、おはよう三樹ちゃん」
「おはよう、双葉さん」


 仕事始めの月曜日の朝。

 会社のロビーで同期の女性社員、双葉杏子(ふたばきょうこ)さんと遭遇した。

 ふんわりとした栗色の髪に小柄な体躯(おそらく百五十センチ前半)。

 髪色の同じ栗色の大きな瞳は、いつでもほんわか瞬いてお人形さんのように可愛らしい。

 そんないかにも女の子らしい同期が彼女だ。


 が。


「三樹ちゃん今日も決まってるねー。ふくらはぎから足首までのラインが本当に綺麗だよねー。明日もスカート穿いて来てねー、パンツスーツだったら私泣くからね」
「双葉さんの言うことは、常によくわからないね」


 ほわわんとした和やか笑顔で、高度なセクハラを仕掛けてくる変わった人でもある。

 ちなみに私は常時表情が恐いらしく、入社式でも完全にアウェイだったのだが、その時に声をかけてくれたのが双葉さんだった。

 そして初めてかけられた言葉は『私、双葉杏子です。「双葉」と「三樹」って運命感じませんか? というわけで、連絡先交換してください』。

 なんでも私の名前と足が気に入ったらしく、お近づきになりたいと思ったそうだ。

 変わっている人ではあるが、基本的にはいい同期だと私は思っている。


「そーだ、三樹ちゃん聞いてよ。昨日大学の頃の友達とコンパ行ったんだけどね、みんな足がイマイチでー」


 エレベーターを目指して歩きつつ、双葉さんがそう物憂げに溜息をつく。

 足で男を測る女子は、一体どれほどいるのだろう。


「長くてすらっとしてる足なら、東間主任とかはどう」
「んー確かに見てるだけならいいんだけど、あの人は恋人いるんじゃないかな? 多分超完璧な美人さんっ」


 そう言って、双葉さんは自信ありげにグッと拳を握る。

 
「……いないらしいけど」
「え? 三樹ちゃんなにか言った?」
「ううん」


 とりあえず首を横に振って誤魔化すと、双葉さんが「そもそも」とあっさり話を戻した。


「東間主任って、すごい完璧主義でしょ? 自分で料理も掃除もこなせて、それ恋人にも求めてきそうでちょっと私には無理ー」


 私、料理得意じゃないからー。

 そう付け加えてほんわか笑う双葉さん。
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