主任は私を逃がさない

 女にとってバージンを捧げるってことが、どれほどの意味を持つことなのか。

 ずーっとずーっと少女の頃から夢に見続けてきた、最高に特別な儀式なんだ。

 一生、忘れられない日になるはずだったのに。

 一生、背負い続ける黒歴史になってしまった。


 それをどんなに松本さんに訴えたって、きっとバカにされて終わりなんだろう。

 誰にも言えない。口を噤んで泣き寝入りするしかない。

 こんなことが周りに知られたら、私は『男にまんまと騙された、スキルの低いバカ女』ってレッテルを貼られてしまう。

 そんな恥の上塗り、耐えられない。


 それに、どんなことをしたって所詮もう取り戻せない。

 私の夢も、憧れも、なにもかも。

 自分の価値が半分以下になってしまったような、理屈じゃ片付けられない敗北感に、この先永遠に囚われ続けることになるんだ。

 
 とめどない悲しみが胸の奥から突き上がり、嗚咽と一緒に溢れる。

 やり場のない悔しさと怒りが膨らんで爆発してしまいそうで、私は再びホールケーキに手を伸ばし、グシャリと鷲づかみにして口に突っ込んだ。

 それでも痛みは消えない。悔しい。悲しい。辛い。苦しい。

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