主任は私を逃がさない
ショックでヨロけてしまった私は、慌ててキッチンテーブルに手をついて体を支えた。
完全にパニックを起こした頭は真っ白で、『どうしよう』の五文字しか浮かばない。
やっぱりダメだった。史郎くんにとって私は幼なじみの妹でしかないのね。
それをはっきりと告げるために『帰るわけにはいかない』のね?
この薔薇の花束は、私の気持ちを受けいれられない謝罪と、せめてもの慰めのつもりなんだわ。
それでさっきあんなに言いにくそうに口籠って……。
テーブルの上の美しい薔薇の花が、両目に盛り上がった涙で霞んでよく見えない。
震える唇をグッと噛みしめ、泣くのを堪えようとしたけれど無理だった。
嵐のような悲しみが込み上げて胸が破裂しそう。全身を覆い尽くす苦しみと痛みに溺れてしまいそうだ。
何も言わないうちに散ってしまった私の恋。
痛みと涙を代償にしてでも前に進もうと願ったけれど、やっぱり現実は非情だった。
私のこの想いはもう告げられない。だって告げてどうなるの? 答えは分かってしまったのに。
史郎くんを悩ませるくらいなら、何も言わない方がいいんだわ。
ごめんね、史郎くん。
妹のくせに、あなたを好きになってしまってごめんなさい……。
「陽菜? どうかしたのか?」
私の様子がおかしいのに気付いたらしい史郎くんが様子を伺いに来た。
私は急いで顔を逸らしたけれど、薔薇の花束の上にポタポタと涙を落とす姿を見られてしまった。