主任は私を逃がさない

「私が変われる保証はどこにもないけれど、それでも少なくとも今より少しは大人になりたい」

「大丈夫。陽菜は変われる。ちゃんと大人になれるさ。でも俺の気持ちだけはこの先永遠に変わらないぞ」


 私の言葉に真剣に耳を傾けていた史郎くんが、とても穏やかな表情でそう言ってくれた。

 深い湖みたいに綺麗な目で訥々と語りかけてくれる。


「大人になっても、変わっても、それが陽菜なら俺は愛し続ける。その確信があるんだよ。ここん所にな」


 私の手を取り、彼は自分の胸に押し当てる。

 さっきの早鐘のような動悸とは打って変わった、とても落ち着いた確かな鼓動が手の平に伝わってきた。

 青空のように澄んだ心と瞳。ウェーブした艶やかな黒髪。私に向ける微笑みや、私の名を呼ぶ温かい声。

 あの頃とまったく同じ。そしてあの頃とは違う私達の関係。

 変わったもの、変わらないものを前にして、私も確信する。


 史郎くんは私の心を決して逃がさない。

 一度手にした勝利をまんまと逃すような、そんな甘い男じゃない。

 これからもちょっとだけ離れたところから私を見守り続け、私が迷った時には手を差し伸べてくれるだろう。

 そしてこの先ずっとずっと、私の心を捕えて放さないだろう。

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