取り敢えず書いてみた作品(無題)
沖田side
「総司、笛を頼む」
「はぁ、今日もですか?まぁ、いいですけど」
そう言いつつも、どこか喜んでる自分がいました。
近藤さんは、僕が近藤さんの頼みを断れないことを知っているのでしょう。
毎晩、毎晩、笛を吹いてとお願いされます。
近藤さん曰く1日の疲れを酒と僕の笛の音色で癒しているそうです。正直、良く分かりません。
でも、近藤さんが僕の笛の音を喜んでくれるのなら、いつでもどこでも近藤さんが望む時にこの笛を吹きましょう。
そう、決めています。
「こんな事頼まれて良いですよって言うのは近藤さんだけなんですよ?」
「そうか!そうか!」
毎日の事ながらそう言って豪快に笑うだけです。
今日も近藤さんに頼まれて笛を吹きます。
隊士達からも評判がいいようで、誰かが言ってるのを聞きました。
♪〜〜♪♪〜〜♪〜♪〜♪♪〜〜
そして今宵も、姉上から頂いた笛を奏でる。
ここに来る前、お守り替わりに、と頂いたこの笛。
お世辞でも綺麗とは言えないです。でも、僕にとっては掛け替えのないただ一つの宝物です。
「総司、その曲の名は?」
「知りません。姉上の見よう見まねです」
「そうか」
昨日も、一昨日も同じでした。
明日も、明後日も、同じでしょう。
人斬り集団と呼ばれるこの壬生浪士組。
でも、一度中へ入ればとても暖かい家族が住む家です。
警戒心が強いだけで根はみな優しい人達なんです。
近藤さんの暖かさは、壬生浪士組の暖かさは誰よりも知ってるつもりです。
笛を吹き終え疲れたので部屋に戻る、と近藤さんの部屋を後にしました。
ふと、月を見ると満月でした。綺麗です。
『おやすみなさい。』
凛とした美しい声が聞こえ、少し月から目線をずらすと塀の上に座る女子とその膝の上ですやすや眠る子狐がいました。
こんな時間に女子が何を?
こちらには背を向けていて顔は見えません。
少しの興味本位とこんな時間に壬生浪士組の家をうろつく女子への警戒心で話しかけました。
「そんなところで何をしてるんです?
場合によっては斬ります。」
左に指してある刀に右手を置いてそう言うと少し身構えた女子。
それでも怯むことなく凛とした美しい声を出しました
『綺麗な笛の音を聞いていた。それだけよ』
多少は怖いんでしょうか、声は震えていました。
それでも声を出せた女子を素直に凄いなと思いました。
「笛の音。綺麗でしたか?」
気が付くとそんなことを口走っていました。
何をしてるんでしょうか。
……自分で自分が分かりません。
気が付くと刀に添えていた左手もいつの間にか刀から離れていて、完全とは言いませんが警戒心を緩めていました。
本能が女子を警戒しなくてもいいと言っているように、警戒しようとも出来ないのです
『綺麗だった。とても暖かくて、優しい気持ちになれたわ』
「それは、良かったです」
目を閉じて思い出すように呟く女子は膝に載せている子狐を撫でていました。
色白な女子にぴったりな真っ白な子狐です。
「紅葉、迎え。」
僕の後から声が聞こえました。
振り返ると僕と同じ年ぐらいの青年が立っていました。
この人は、何者でしょうか。
この女子と知り合いなのは確かです。
でも、それはこの際どうでもいいのです。
僕は今までここにいたのに、この人が声を出すまで気付けませんでした。
可笑しいですね。いくら刀から手を離していても警戒は怠らなかったはずです。
(なぜ、僕の知らぬうちに僕の背後に回れた?)
男の登場により、緩めていた警戒を最大限高めたました。
男は鋭く睨みあげても素知らぬふりで欠伸をこぼします。
そして、女子は塀の上に座ったまま、あの美しい声を出しました。
『冬斗、来たのね』
どうやら、この青年は冬斗、と言うそうです。
女子が青年の名前を呼んだ時、チクリと胸が痛くなりました。なにかの病気でしょうか。
明日にでも山崎さんに診てもらいましょう。
「今日、僕は何も見ていません。次に僕がここで女子を見た時、敵とみなし、問答無用で斬ります」
女子の返事を聞く前に小さく微笑んで踵を返して壬生浪士組と書かれた表札がぶら下がるドアを開け中へ入っていきました。
もうあの女子に会うことはないでしょう。
そう思うと、胸が痛いのです。どうしてでしょう。
痛む胸を無視して自分の部屋に戻りましたが部屋の中には決して好きではない土方さんが我が物顔で座っていました。
定期的に聞こえる吐息に前のめりになる身体。どうやら、座りながら寝ているようです。
(……なんて器用な事を)
蹴飛ばして起こしたいところですが、今日だけは永倉さんが僕の部屋に置いていったブカブカの羽織りをかけてそっとしておきました。
僕も寝ようと思い部屋の隅に腰を下ろしました。
ロウソクについた唯一の明かりを消すと、部屋には静寂が訪れます。
いつもと少し違うのは土方さんの吐息が聞こえる事です。
おやすみなさい、土方さん。
部屋の柱に頭をあずけ背中を壁にあずけました。
いつもよりゆっくり眠れた気がします。