連れ添い
 ☆☆



 ――時刻は午後七時すぎ。藍色の空に浮かぶ三日月が優しく輝いている。


 経理部の人間は彼女を置いてすでに帰宅してしまった。この部屋にはぼくと彼女のふたりきりだ。


 静かな部屋には時折、空調機の乾いた音が聞こえる。電気スタンドの光が手元を照らしていた。


 
「さあ、うだうだしている暇はないよ? 修正してしまおうか」

 今日という時間は限られている。


 腕まくりをしたぼくは、歯を見せてにやりと笑った。

 すると彼女は頬を染め、にっこりと微笑んだ。への字に曲がっていた唇が弧を描く。

 柔らかな春の日差しのようなその笑みが、ぼくの胸を高鳴らせる。

 彼女のその笑みこそが、ぼくが見たいと思った表情だ。


 彼女はこくんと大きく頷くと、ひたすらキーボードを打ち続ける。


 何も悩む必要はないよ。今日はとことんまで君に付き合うからね。


 ぼくは彼女のつむじに唇を当て、修正が終わるまで寄り添い続ける。

 時刻は午後七時。夜はまだ長い。



 ―End―


 ※擬人化は「残業」です。
< 2 / 2 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:1

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

今宵は天使と輪舞曲を。
蓮冶/著

総文字数/199,063

ファンタジー326ページ

表紙を見る
恋の逃避行は傲慢王子と
蓮冶/著

総文字数/6,913

恋愛(純愛)19ページ

表紙を見る
聖なる鎮魂歌は闇の王子に捧げる
蓮冶/著

総文字数/5,241

ファンタジー9ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop