グリッタリング・グリーン
お稚児さんて…。

つまり、そういう意味?

部長と、葉さんが??


私はなんだか嫌な汗が出てきて、何か想像しようとする自分を戒めた。

部長は背も高く身体もきりっと締まって、制作系の会社には珍しくきちんとジャケットやスーツを着る、ナイスガイだ。

対して葉さんは、大柄ではないし、どちらかといえば華奢で線が細く、少しぼんやりと甘い顔立ちは中性的。

言われてみれば確かに、ふたりとも、女の人の匂いがまったくしない。

いや、でも、だからって。

妙にリアリティがあるようなないようなで、私は熱くなる頬を意識しつつ、読み合わせ行きます、と無理やり流れをもとに戻した。






「このフォント、いいね。生方が作ったの?」



例の百科事典の目次ページのデザインを提出したところ、部長が私を席に呼んだ。

葉さんの挿絵に合わせて私が作った数字フォントを、気に入ってもらえたらしい。



「アルファベットとカナも作ってよ、ページタイトルもこのフォントでいこう」

「本当ですか」



書籍全体の雰囲気を左右する話だ。

そんな部分に、私のデザインしたフォントが採用されたんだ。

舞い上がる私に、部長が優しく微笑む。



「葉の絵が活きるフォントだね」



その瞬間、私の頭の中は稚児という単語に埋め尽くされてしまった。

いや、そんなバカな噂、信じてるわけじゃないけど、ついなんとなく。

だって、そんな親しみのこもった声で、葉とか呼ばれると。



「できた素材、社内のデータベースに入れような、きっと重宝されるよ」

「いいんですか」



よそごとに向きかけていた心が、一気に浮き立つ。

データベースに素材を残すなんて、クリエイターだけに許されることだと思ってた。

私はもう嬉しくて、ありがとうございます、と夢中で頭を下げた。


だけど、葉さんにお願いしているような、いわゆるイラストを社内で制作することは、この会社では行わない。

そういうものも描きたいです、とダメで元々なんだから、部長に言えばよかったのに。

そこまで調子に乗ることはできず。

なにより、自分が一番大事にしているイラストを見せて、もし否定でもされたら、立ち直れなそうで。


結局、何も言い出せなかった。



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