グリッタリング・グリーン

「もらったラフとかで、ある程度描けるんだろうなとは思ってたけど。なんで仕事で描かないの」

「うちは、イラストは社内では制作しないんです」



葉さんがそんなふうに言ってくれることで、私はなんとなく光栄な、救われたような気持ちになったんだけれど。

同時に、彼との住む世界の違いを感じてもいた。

私の説明が理解できなかったらしく、葉さんが眉をひそめて首をかしげる。



「そういう、ルールでもあるの?」

「ルールっていうか…」



どう説明したらいいんだろう。

とにかく、うちの会社で何か制作する場合、社員がするのはデザインまでで、イラストのような、作家の個性に依るところの大きい画は社内では制作しない。

そう言っても、葉さんは納得できないようだった。



「描ける人間がいるなら、中で描けばいいのに」

「作家さんの作品であることに意味がある時も、あるので…」

「俺なんか別に、イラストで名前知られてるわけでもないし、関係ないじゃん。単に前例がないってだけでしょ?」



俺、そういう考え嫌い。


言い放つ彼は、たぶんなんの他意もないんだろう。

ただ嫌いだから嫌いと言った、それだけなんだろう。


だけど私は、その言葉に胸を貫かれて。

うつむいたまま、顔を上げることができなくなった。


この人は結局、成功者だ。

自分の腕一本で食べていくことのできている、数少ない人たちの一員だ。


自分の作品が他人の目に触れる機会を得て、評価されたり、お金になったりなんて。

そんなの想像すらできない、底辺のただの「お絵描き好き」がどれだけいることか、彼にはわからないだろう。

だからこそ、ちょっと描けるだけの私の絵を見てこんなふうに軽く、やってみれば、なんて言えるのだ。



「…葉さんには、わかりません」

「何が?」



顔を上げた私を、不思議そうに首をかしげて見つめる。



「やりたきゃできるってものじゃ、ないんです」

「自分にはできないと思うってこと?」

「そういうことでもなくて。私がどう思ってようが、できないことは、できないんです」



泣いてるみたいな声が出た。


できないんです。

会社には、特に明文化されていなくても、それなりの方向性とか、空気があるんです。

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