グリッタリング・グリーン
意地になる私を、葉さんがぱっと離して、そっか、と気が抜けたように言った。



「いいところに気がつくね」



私の腕に手を置いたまま、ちょっと考えるように首をかしげる。



「じゃあ、生方の負け」

「なんですか、それ!」

「負けた気、してるでしょ?」



悪びれない笑顔に、折れた。

してる。

完全に負けた気がしてる。

面白くない気分を、隠すのも癪で、露骨に顔に出す私を、葉さんが笑い。

ふいと顔を寄せて、触れそうな距離で微笑んだ。



「行ってくるね」



ふわふわした前髪が、私の鼻筋をくすぐった。

せっけんみたいな、飾らない匂いと、かすかな体温。


ぼんやりしているうちに、葉さんは手を振って、行ってしまった。

吸いだめしなきゃ、と陽気に口ずさんでいたので、たぶん飛行機に乗る前に、煙草をたっぷり吸ってくんだろう。


今ごろ顔が熱くなってきた。

間近で見た、葉さんの綺麗な歯が、目に焼きついて離れない。


もしかしてこれからも、私と葉さんはこんなふうに、小さな勝ち負けの積み重ねで進んでくんだろうか。

だとしたら私、次は勝たないと。

負けっぱなしなんて、面白くない。


しかも葉さん、今回は部長の差し金なんだから、あなたの勝ち点だって半分ですよ、いいですね。

そんなことを考えながら、駅のある地下フロアに向かってエスカレーターをくだるうち。

急にさみしく、心細くなって。


葉さんの飛行機の出発時刻までは、空港にいようかな、なんて。

そんなことを思った。



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