グリッタリング・グリーン

「すみません、私」

「生方を責めてるんじゃないよ、ただ、そんな遠慮させた自分がさ」



小さく手を振ると、葉さんは力なく微笑んで。



「情けないだけ」



額に手を当てる仕草は、動揺を表してるように、見えた。

こんなふうに自信なさげな彼を初めて見て。

責めてもらう代わりに、自分で自分を責めた。


本気で私が望んだことなら、葉さんが否定なんてするわけないことくらい、わかってた。

でも私は、部長に手を引いてもらって、背中まで押してもらって、やっと足を踏み出せたようなもので。

中途半端だったから、恥ずかしくて言えなかっただけだ。



「葉さん…」

「やっとつかまえたわ、葉」



だしぬけに、女性の声がした。

ドアベルの音をさせて、店内を進んできたその人は、葉さんの隣の椅子に、どさりと座って脚を組んだ。



「探してたのよ、派手なパフォーマンスしてくれたおかげで、見失わずに済んだ」



葉さんは驚きのあまり、言葉を失っているみたいだった。

私も同じ状態だった。


背中まである、明るい茶色のストレートヘア。

緑がかったブルーの瞳。


一見して欧米の血が入っているとわかる、綺麗な女の人。



「やだ、何か喋ってよ」

「…なんで、ここに」

「葉を追いかけてきたのよ、ジュネーブでつかまえそこねたから」



呆然とする葉さんの指から、灰の伸びた煙草をとりあげて、灰皿で消すと、にこりと笑む。



「仕事の話よ、私、今はエージェントをしてるの、ねえ、紹介してちょうだい」

「あ、えっと」



彼女が手振りで私を示すと、葉さんが言葉に困った。

確かに、私もなんて紹介されるべきなのか、わからない。



「彼女?」

「…って言えたらいいんだけど」



残念そうに言う葉さんをくすっと笑って、女の人が私に手を差し出した。

黒一色なのに、不思議と華やかな印象のスーツを身にまとって、たぶん、年齢もそこそこ上。

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