仮氏
「俺さ、元カノの中に妊娠させちゃった子がいるんだよね」

彼は独り言を言うように呟いた。

「それで?」

「いや、正確には知ったのは堕した後だったんだけど」

「別れたあとに発覚したとか?」

「違う」

「ふーん……」

お互い黙った。
私はそれで?と聞き返すことはしなかった。
今振り返れば、知りたくなかったんだな、と思う。

「いきなりさ、もし今子供できちゃったってなったらどうする?って聞かれたわけ」

「うん」

「当時は今みたいにきちんと仕事してなかったし、生活してけないから今は無理かなって言ったんだよ」

「…うん」

「そしたら彼女、そうだよね、って言って終わったんだ」

「でさ、後日子堕してきたからって言われた」

「はぁ?」

「本当にはぁ?だよ。同意書は友達に頼んでなんとかしたからって言われてさ、いやいや違うだろ、なんでちゃんと相談しなかったんだよって言ったらさ」

「うん」

「だって今は無理かなって言ったじゃんって。え!あれが!?ってかんじ。もっとちゃんと話してくれれば俺だって違う答え出してたかもしれないのに」

「うん、そうだよね…」

「だから俺の肩には水子の霊がついてるんだ」

彼はそうおどけてみせたけど、その顔が少し悲しそうだった。

「そんなこと…」

「もっと真剣に話してくれれば、もしかしたらそんなことにならなかったかもしれないし、もしも堕ろすってなってもお互いきちんと話し合った結果で、納得できたかもしれないし…。結局違う理由で別れたんだけど」
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