仮氏
「家もさ、本当に別にいつでも連れてきて良かったんだ」

彼が口を開いた。

「っていうかさ!莉音は俺が実家に住んでるって分かっても何にも言ってこなかったよね!」

「うん、別に何も言うことないじゃない?」

「いやさ、普通いい歳して実家!?とか言うじゃん」

「そういうの関係あるの?いい歳だったら一人暮らししなきゃいけないわけ?」

私がそう返したら彼はははっと笑った。

「…莉音がそういう女の子だから、こうして会っちゃうんだろうな、俺」

「…ちょっと、何よ…」

「俺さ、両親が離婚してて、母親に引き取られたわけさ。で、俺には兄ちゃんと姉ちゃんがいて。兄ちゃんは連絡はつくんだけど、今どこに居るのかわからない。で、姉ちゃんは結婚して子供がちょっと前に産まれたばっかり。よくここに子供連れて帰ってきてるよ」

知りたいけど聞いてはいけない気がして聞けなかった彼のことを、彼はぽつりと話し出してくれた。

「今さ、爺ちゃんが体調悪くて、母さんは仕事しつつそっちに付きっきりだから俺が実家に帰ってきたってわけ。そんな時に莉音と会ったんだよね。」

「そうだったんだ…」

「そ!で、元カレの事聞いたじゃん?うちの姉ちゃん片親だけど反対なんてされなかったし、姉ちゃんなんて莉音より全然カスなのにって思って、んー、何ていうんだろ?俺なりにショックだった。…気軽に聞いちゃった俺が悪いんだけど」

「…そんなことないよ、嫌だったら話してないし」

「…そっか。ならよかった!莉音は絶対幸せになれるよ!だから大丈夫。俺んちは片親でも反対なんてしないし、なんなら俺んちも片親だし兄ちゃんはどっか行っちゃってるし…。あと、俺は長男じゃないしね!!」

と彼は笑った。

「ちょっと…なんでこんなときにそんなこと言うかなぁ……」

また涙がポロポロ溢れてきてしまう。
そんな私の気持ちなんてわからない彼は

「まぁ、こういう例もありますよーって事で!」

と言った。









私は、この日の彼の事がずっと忘れられないでいる。
この日の彼の表情もすぐに目に浮かぶし、声だって今になっても鮮明に覚えている。
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