仮氏
ずんずん進む彼についていくと、一軒の鉄板焼きのお店に着いた。

「莉音魚は嫌いって前言ってたでしょ?だから肉ね!」

何気なく話したことだったのに彼はちゃんと覚えていてくれた。
…なんか、うれしかった。

彼が選んでくれたこのお店はお肉はもちろんその他のお料理もおいしいし、お店の落ち着いた雰囲気も良かった。

「よくこんな素敵なお店知ってたね」

「俺、前バーテンやってたからいろいろ知ってるのよ」

「へー。今は?」

「飲食関係の仕事。バーテンやめてからちょうど声かけてもらったんだよね」

「ふーん。」

「莉音は?」

「司法書士事務所の事務員」

「へー!事務ってどうなの?」

「私は資格をいくつか持ってるから、普通の事務職よりかはお給料もらってるかな」

「まじで?俺家事全般やるから養ってよ!」

「はぁ?寝言は寝てから言いなよ」

「よくない?帰ってきてごはんできてるの」

「いいとは思うけど。お金持ちのオバ様でも見つけて飼ってもらいなよ、としか言えないね」

私がそう言うと彼は口を尖らせた。

おいしいお料理を堪能して、私たちは店を出ることにした。
素敵なお店に連れてきてもらったし、養ってなんてバカなことも言ってるし、お会計は私が払おうとした。
だけどさっさと彼が済ませていた。

「ダメだよ!せめて半分出す!」

「カードだしいいよ!」

「ダメだってば!」

「こういうのは男が払うもんだから」

これ以上ダメダメ言い続けると彼のプライドを傷つけるかもしれないし、

「次は私が払うからね」

と言ったら彼はおう!と言った。
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