仮氏
あのあと、何回か彼から電話がきたけど私は出ることができなかった。
自分からあんなことをしておきながら、彼と話す勇気が出なかった。
彼から何を言われるのか、怖かった。

今なら、楽しい思い出いっぱいで終われる

私はそう思っていた。
というかむしろ楽しかった思い出しかない。




また、いつもと変わらない朝が来る。
いつものように支度をして、いつものように出勤して。
彼の電話を無視してから、一度も連絡がくることはなかった。
それと同時に仕事が忙しくなったので、いろいろ考える時間がなかった。


「とりあえず夜ごはん買わなきゃ…」


事務所に残っているのは私以外みんな男性。
出前を頼むと盛り上がっているけど、私は疲れすぎていてがっつり食べる気分になれないでいた。
事務所のすぐそばにあるデリでサラダを買った。
もしこれが漫画や小説なら彼が偶然目の前に現れて、こんな私でも少しは運命ってやつを感じたりするのかもしれない。
だけどこれは、現実。
いつも突然いろいろ決まる私たちではあったけど、そこまで出来すぎた話は用意されていない。

わかっているのになんで私はまた何かを期待してるんだろう。

電話さえ出ないくせに、図々しすぎる自分に嫌気が差す。
< 43 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop