七色の空
チャプター26
「La La La...」

二人の乗った軽トラは、湾岸沿いの道路を南へ南へ。工業用港に到着すると、デッキや屋根のない貨物船に車ごと乗り込む。
船の上に、軽トラがぽつんとたたずむカタチ。車内から二人は海を眺めている。しばし言葉を失って…遠くから船の汽笛が聞こえる。二人はゆっくり船に運ばれて、いくつもの波に揺られながら、ようやく宝の山にたどり着く。
辺りいち面ゴミ、ゴミ、ゴミ。ゴミで埋め立てられた島。ゴミで出来た山があちこちに高くそびえたち、そこらじゅうをトラクターが走り回っている。
林檎はここに、今までを全部棄てて帰る。部屋には何も残っていない。鞄に数日分の衣類があるだけである。生活用品一式を買い替えるぐらいの貯金はある。今日付けで部屋も解約した。新しい部屋が決まるまで、またインターネットカフェの個室でオナニーをするつもりだろうか?
無数のカモメが島の上空を飛び交っている。
 夕陽を浴びながら、貨物船が二人を迎えに来た。
 船の上の車のなかで、また二人はしばらく黙ったまま海面を見つめる。
茜色の海面は、沈み行く太陽を鏡のように映し、途切れない波は、空と海の境界線を溶かしている。
車内の沈黙に、福生の口が言葉を添える、
福生「ホントに全部すてちゃったね」
林檎「…」
福生は煙草に火をつける。窓から煙がもれて、広くて何もない海上の空に昇ってゆく。
林檎「あの日、助けてくれてありがとね」
福生「…」
林檎「あんなすごい出来事があったのに…」
福生「…」
林檎「私は何もかわれないでいる」
福生「…」
林檎「こんな歳だし、親も歳だし…結局なんもねェのナ、あたい」
二人の為に、波が素敵な音を一小節奏でた。
福生「そんな林檎が好きです」
二人の為に、波が演奏を慎んだ。
軽トラから煙草の煙が細く長く、上空にあがってゆく。
この広い海の上 所詮二人はちっぽけで 二人のことなど誰も知らない

林檎「ありがと」
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