七色の空
チャプター54
「ハンドルネーム深夜の願い」
 林檎は携帯サイトでブログを公開していた。福生にも周知しており、いつも一緒にいた時も、福生はハンドルネーム「深夜の願い」でハンドルネーム「林檎」に応援メッセージを送っていた。もっぱら福生は林檎のブログにたくさんの足跡がつくように、宣伝広報の役割を担っていたのだが…一度だけ同棲を始めてから二人は些細なことが原因で気まずくなり、お互い数日の間、少し距離を置くことがあった。その時、ハンドルネーム「林檎」は「深夜の願い」のアクセスを拒否設定する。
林檎はふいに、その時のことが脳裏をよぎり、その時の意地悪を少し後悔するのだった。あの時、直接福生の口からは言ってもらえないでいるメッセージを、福生は送っていたんじゃないだろうか?林檎は急に、毎日顔を合わしていた福生のことが、これまで二割も分かっていないような気がした。あのアクセス拒否していた時間の福生のことが気にかかる。福生は今更、気にもしていないだろうが、あの時の福生の気持ちを確認したくなった。
 福生が入院してから一週間会っていない。林檎は面会にいけないでいた。福生が二度目の救急車で運ばれた時、手術室から出てきた福生が、変わり果てた姿に見えたからだ。
 今でも林檎のブログには全国からたくさんのアクセスがあり、顔も分からない登録者から毎日メッセージが寄せられる。林檎は暫く確認していなかったブログにアクセスする。一日に200を越えるアクセスと沢山のコメントがある。2日前に思わぬ訪問者のハンドルネームが記録されてあった。
「林檎は林檎をがんばってp(^^)q」
ハンドルネーム深夜の願い
 福生はもはや、自分の存在が林檎にとって迷惑になっていると認めている。本当に愛する女性には男は直接言えないことがある。
男は背中で語るもの、女は男の背中から察するものである。
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