七色の空

ﾁｬﾌﾟﾀｰ79
「あれ以来」

思い通りに生きてごらん もしも心が傷付いたなら 泣きながら戻ってくればいい 僕はいつでもそばにいるんだから
思い通りに生きる時、そばに誰かがいてくれることは、強い。人が誰かのそばにいるのは、思い通りに生きる為なのである。それ以外の意味で誰かのそばにいるのであれば、それは依存であり、妥協である。
いなくなってしまう事は あなたを愛した証 夢にまで見た幸せの欠片を 今少しだけ掌にのせているんだ 歪なカタチで 微笑むリズムで きっとメロディー それなりのメロディー 爪先がいま宙に浮きそうだ
恋をした人間は、それ以外の人よりわずかに宙へ浮いている。それは目で確認が出来ないほどわずかなもので、爪先と地面の間に見たこともない空間が存在している。その空間が存在しないのなら、それは恋ではなく依存であり、妥協である。
福生の林檎に対する思いは、まゆらへのそれを越えることはない。まゆらは手に入らず、林檎はそばにいるからだ。
林檎は妥協の結果、福生のそばにいる。福生は依存の結果、林檎のそばにいる。
いま福生の隣で手を握っている林檎を大事にしたいと、消えそうな意識の中で福生は願う。
きっとまゆらは、あれ以来、福生のことを思い出すようなことはなかったに違いない。