救済のキス
「ところで、栄さんこそまだ帰らないんですか?」

話を栄さんに振ると、彼はさらに私の隣に近づいてくる。そして、平台の上に大きな左手を付いて、私の顔を覗き込むようにした。

「……そうだな。まだ、帰れなさそうだ」

艶っぽい声で、静寂の中突然真面目な瞳を向けられると、いくらなんでもドキリとしてしまう。
固まってしまった私を、彼は逃さないとでも言うようにジッと見つめ続ける。

「な、なんですか?」
「いや。こんな時間だし……。あんたも女だろ」

彼は、ふっと口の端を僅かに上げ、眉を下げながら切れ長の目を細めてそう言った。
まるで『仕方ないな』とでも言うようなカオで。

「だ、大丈夫ですよ! 私、もう結構いい歳ですし! あ! でも、体力には自信ありますから、その辺も大丈……夫」

変な緊張感のあまり、変なことをつい口走っては一歩退いた。
すると、パシッと左手首を彼の大きな手で捕えらる。

そうして、クイッと引き寄せられると、彼のテリトリーに引き入れられた。

首が痛くなるくらいの長身の彼を見上げ、まるで時間が止まっているかのような錯覚に陥る。
そのまま、もう片方の手が私の顎に添えられ、固定された。

「――開けろ」
「は……?」
「口、開けろよ。奈津子」

不意打ちの言葉に、自然と口が開いてしまう。

狡いよ。今までは『あんた』とかしか言わなかったくせに。
私の名前を知っててくれて、この距離でそれを口にするなんて。

思うことがありすぎて、なんにも言葉に出来ない私に、彼は容赦なく近づいてくる。

「……元気やるから。もう少し頑張れ」

彼が唇に触れると、不思議と力がみなぎってくる。
気休めかもしれないけど、彼がいてくれて、疲れていた身体が少し回復した気がする。

彼は、また自分のことより私を心配してくれた。

「――よし。頑張る」

私は気合いを入れ直し、目の前の商品とその後も格闘し始めた。





*おわり*


栄=滋養強壮(栄養)ドリンク





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