幼馴染みの期限
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『ピンポーン』
LINEの着信の音が、私の意識を10年前から引き戻した。
『じゅりっち大丈夫?!具合悪いの?』
宏美さんからのメッセージに「わっ、しまった」と思わず声が出た。
鼻をかみますと言ってトイレに立ってから、既に10分が経過していた。
いつもの居酒屋だったら、『ちょっと、じゅりっち大丈夫ー?何か出たー?上からー?下からー?』なんて恥ずかしい内容まで大声をあげながらダンダン!と乱暴にドアをノックしたりする宏美さんだけど、さすがにお洒落バーでのドアノックは躊躇ったらしい。
慌てて涙を拭い、化粧も直さずに外に出た。
薄暗い通路を通り抜け水槽の脇を通り、宏美さんのいるカウンター横のボックスシートへと急いで戻る。
「宏美さんすみませんー」
すみませんでした、と言いかけた言葉が途中で止まる。
宏美さんは一人ではなかった。
「あー、じゅりっち大丈夫だった?」
ほっとした様子で話しかけてきた宏美さんのその声も、右から左へと抜けて行く。
「トイレに篭ってたんだって?飲み過ぎて寝てたんじゃないのか?」
宏美さんの向い、さっきまで私が座っていた席に、広海が座っていた。