フテキな片想い
遠藤さんはカップをテーブルに置くと、両手を組んで考え始めた。
「そういえば、最近というか、ずっと恋はしてないかもしれないわね……」
「結婚すると、相手を好きじゃなくなっちゃうんですか?」
「そういう意味じゃなくて、子供が生まれたら、そっちに付きっきりになっちゃうのよ。自分の事よりも子供を優先するようになって、それが当たり前で、旦那も大きな子供みたいな人だから、彼にとっても私はお母さんなのよね。家族は大切だし、愛してはいるけれど、ドキドキしたり、相手を想って苦しくなったり、そういう恋する乙女の感情は、久しく味わってないわ」
全然、参考にならない答えね、ごめんねと遠藤さんは笑った。
「結婚を決めたのは、タイミングとか適齢期だったとか色々理由はあるのだけれど、子供たちの手が離れて、お店を持とうと思うのって旦那に相談した時にね、「君の人生なのだから、君の好きなようにすればいい。手伝えることがあれば協力するよ。息子たちを立派に育ててくれてありがとう。これからもよろしくお願いします」って言ってくれてね。その時、あぁこの人と結婚して良かったって思ったわ。普段はロマンスの欠片もない、メタボおじさんなんだけれどね」
そう言いながら、またケタケタと笑う遠藤さんは、とても幸せそうに見えた。