閉じたまぶたの裏側で
適当に小綺麗な格好をして、あまりヒールの高過ぎない靴を履いて自宅を出た。

待ち合わせ場所のコンビニでコーヒーを2本とガムを買った。

勲と恋人同士だった頃も、こんなふうにコンビニでコーヒーとガムを買って、ドライブに行ったっけ。

今更そんな事を思い出してもしょうがないのに、夕べからやたらと昔の事ばかり思い出してしまう。

往生際が悪いな、私も。

もうあの頃には戻れないのに。



会計を済ませて外に出ると、一台の車がコンビニの駐車場に入って来た。

その車の運転席には應汰の姿。

当たり前だけど、こうして待ち合わせてる相手が勲じゃない事が不思議だ。

應汰は車を停めて、運転席の窓を開けた。

「お待たせ。乗れよ。」

「うん。」

助手席のドアを開けてシートに座り、シートベルトを締めた。

「これ。」

「お、サンキュー。」

コーヒーとガムを差し出すと、應汰は嬉しそうにそれを受け取った。

そしてしげしげと私を眺めた。

「……何?どっかおかしい?」

「いや、かわいいじゃん。今すぐ残さず食っちまいたい。」

「…殴っていい?」

「バカ、なんもしねぇよ。約束したもんな。」

應汰は私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「いつもの髪型もいいけど、俺はこっちのが好き。めっちゃかわいい。」

「…それはどうも。」

今まで應汰にかわいいなんて言われた事がなかったから、無性に照れ臭い。

勲がつけた首筋のキスマークを隠すためよ、なんて口が裂けても言えないけど。






< 35 / 107 >

この作品をシェア

pagetop