閉じたまぶたの裏側で
私が目をそらして黙り込むと、應汰は免許証入れを私に差し出した。

「その時思わずこれ落としちゃってな…中に入ってた写真が見えた。」

「写真…。」

そうだ。

免許証入れに、昔勲と撮った写真を入れたままだった。

普段は滅多に見ないから忘れていた。

「橋本主任…だよな。」

「……うん。」

「昨日来てたのも…?」

「そうだよ…。」

應汰は私から目をそらして唇を噛みしめた。

「俺と会った後、この部屋で…橋本主任に抱かれたの?」

「……何それ…。」

もう何も言いたくない。

私と勲の間に何があって、私がどんな思いで勲との別れを選んだのかなんて、應汰には関係のない事だ。

「帰って。」

「芙佳…。」

「應汰には私の気持ちなんかわからないよ…。私も應汰にわかってもらおうなんて、思ってない。だから應汰と話す事なんて何もない。」

「俺は芙佳が好きだから、芙佳の事、なんでもわかりたいと思ってる。」

やっぱりわかってない。

そんなに簡単な事じゃないんだ。

「いくら好きでも、わかり合えない事だって…お互いどんなに好きでも、どうにもならない事だってあるんだよ。私だって好きで不倫なんてしてたわけじゃない!」

「わかってるよ。」

「わかってないよ!私がどんなに彼を好きだったか應汰にはわからないでしょ?!」


ひどいな、私。

こんなのただの八つ当たりだ。


それこそ應汰には関係ないのに。




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