閉じたまぶたの裏側で
翌朝。

ゆっくりと目覚めると、私の隣に應汰の姿はなかった。

二日酔いの頭がズキズキと痛む。

ぼんやりと天井を見上げ、夕べの事を考える。


私は應汰に抱かれながら、記憶の中の勲と体を重ねていた。

ひどい話。

最低な事をしてしまった。



“ずっと芙佳とこうしたかった”


不意に夕べの應汰の言葉を思い出す。

應汰は一体どんな気持ちで私を抱いていたんだろう?

言葉にしては言わなかったけれど、應汰は何度も“今、目の前にいる俺を見てくれ”と、全身で言っていたんだと思う。

勲の代わりなんかじゃなくて、應汰自身を。

幻はどんなに寄り添ってもやっぱり幻で、抱きしめる事もできない。

應汰もきっと、私に私の幻を重ねて抱いていたんだ。


すぐそばにいて、どんなに好きだと言っても届かない想いをもて余して、私の失恋話にまで付き合わされて…。


失恋パーティーと應汰が言い出したのは私のためじゃなくて、應汰自身のための失恋パーティーで、ヤケ酒したかったのは應汰の方かも…。


應汰の気持ちを知っていて、優しさに甘えるだけ甘えて、結局私は勲を失った寂しさを埋めるために應汰を利用した。



もしかしたら應汰もそれに気付いているのかも知れない。



“芙佳、もっと俺を感じて”


身代わりなんかじゃなく、今芙佳の中を満たしている俺をもっと感じて。


俺の愛をもっと感じて。



そう言いたかったの…?






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