閉じたまぶたの裏側で
タイミング良く異動になったりしないかな。

そんな事を考えながら仕事をして、定時になるとスマホを見て、應汰からの連絡がない事を確認する。

誰との約束もないから、待つ必要もなく退社して、まっすぐに帰宅する。


これが最近の私の一日だ。



もう少しで11時になろうかという頃、過去の商品データを調べるために資料室に足を運んだ。

「あっ、芙佳。久しぶり。」

「久しぶり。元気?」

営業部に勤めている同期の美緒が、脚立の上で私に手を振った。

美緒は資料を手にゆっくりと脚立から降りて、メモを見ながら資料を探す私の手元を見た。

「ねぇ芙佳…。山岸となんかあった?」

「えっ?」

突然應汰との事を聞かれ、内心ドキッとした。

「なんかって…何?」

「いや…芙佳と山岸って前から仲良かったし、しょっちゅう一緒にいるとこ見てたから、付き合ってるんだなーって思ってたんだけど…違うの?」

そうか、端から見るとやっぱりそんなふうに見えてたんだな。

「そういうわけじゃないんだけど…。高校の同級生だし、仲はいいよ。それがどうかした?」

「そうなんだ。だったらいいんだけどさ…。」

「いいんだけど…何?」

美緒は壁時計をチラッと見て、慌てて資料の入った箱を掴んだ。

「ごめん、そろそろ戻らないと。仕事の後、久しぶりに食事でもどう?話はその時に。」

「いいよ。仕事終わったら連絡して。」

急ぎ足で資料室を出る美緒の背中を見送って、私も必要な資料を探した。

一体なんの話だろう?

なんにせよ、どうせ今日も一人だ。


たまには女友達と食事も悪くない。





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