閉じたまぶたの裏側で
雨の中をひたすら歩いた。

こんなにずぶ濡れじゃ、電車にも乗れない。

どうせなら、歩いて帰ろう。

心の中のいろんなわだかまりを、この雨が涙と一緒に洗い流してくれそうな気がする。

勲を好きだった事も、幸せだった日々も、虚しかった不毛な関係も、寂しくて一人で泣いた夜も、全部忘れてしまおう。

勲を想って應汰の胸で泣いた事も。

勲を思い浮かべながら應汰に抱かれた事も。

そんな私を好きだと言って優しく抱きしめてくれた應汰に溺れていた私も。

みんな、なかった事にしてしまおう。


──なんて、簡単にできれば苦労しないよ。

忘れたくても忘れられない。

忘れたいけど、忘れたくない。

覚えていてもつらいだけなのに、忘れない、忘れたくないと心が叫ぶ。

だってやっぱり、好きだから。

好きだったんじゃなくて、好きだから、終わったふりをするのは苦しい。


その苦しい胸の内を受け止め、抱きしめてくれた優しい手を、私はなくした。



私は一体、どちらが悲しくて泣いているんだろう。




自宅にたどり着く頃には、雨もすっかり上がっていた。

雨と涙で濡れた頬を手の甲で拭いながら空を見上げた。



雨に濡れても、私は自分の足で歩いていける。

立ち止まっても振り返っても、また歩き出す。




やまない雨はない。





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