閉じたまぶたの裏側で
「関係ないって何?」

会議の後、会議室の片付けをしていると、誰もいなくなるのを見計らって勲が私の隣に立った。

「なんの事ですか、主任?」

「とぼけるなよ。」

ここは会社だと目一杯牽制しているつもりなのに、どうしてそれがわからないんだろう?

「俺以外にも男がいるのか?」

──呆れた。

私以外に妻という女がいるあなたには言われたくないわ。

「用がないならどいて下さい。」

勝手な言葉を無視して片付けを進めようとすると、勲は私の腕を強く握った。

「はぐらかすな。」

「痛いです。離してください、主任。」

ドアの向こうに会議室に入って来ようとする誰かの足音が聞こえて、勲は渋々手を離した。

人に言えない関係なんだから、会社でこんな事をするのはやめて欲しい。

誰かに知られて困るのは、私よりも勲だ。

勲は何事もなかったような顔をして、会議室を出て行った。

その背中に焦りと苛立ちをにじませて。


私が誰と何をしたって、勲には文句を言う資格なんてない。



3年前、私と付き合っていたはずなのに、七海と結婚したのは勲だ。






仕事を終えて、自宅に帰ってお風呂に入り、適当に夕食を済ませた。

一人の夕食なんて味気ないものだ。

何を食べてもたいして美味しくはない。

だから一人の時は出来合いの物を買ったり、冷蔵庫にあるもので簡単な物を作ったりして済ませる。

毎日手料理を作ってあげたいと思える人がいれば、また違うのかな。

私は勲のために料理を作ったりはしない。

だって私は彼女でも妻でもないから。





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