閉じたまぶたの裏側で
今更こんな事を考えても仕方ない。

もう考えるのはよそうとどんなに思っても、目の前であんなに幸せそうに笑われたら、叶わなかった夢がまた悲鳴をあげる。


癒えないうちにまた容赦なくえぐられた傷は、いつまでもジュクジュクと醜い膿をもつ。

傷の手当てをしてくれた優しい手を失った私はズキズキと疼く傷口を涙で洗い流し、耳を塞ぎ目を閉じて身を守るしかない。


でも…もう、泣くのは疲れた。




昼休み、社員食堂で彼女と楽しそうに笑っている應汰を見掛けた。

私を好きだと言っていた事なんて忘れてしまったんだろう。

新しい恋に踏み出した應汰は、私の存在になど気付きもしない。

私を癒やしてくれたはずの應汰が、醜い傷口をえぐる。

もう何も見たくない。

踵を返してその場から逃げるように離れた。

失ってから気付く事が多すぎる。


私には醜く膿んだ傷しか残らない。


ここにいる限り、私はずっと叶わなかった夢の亡骸にしがみついて、好きだった人を憎んで、好きだと言ってくれた人の幸せを妬んで、一歩も前には進めない。

自分ではどうにもできない醜い心をもて余して朽ち果てて行くしかないのかな。


いっそ消えてしまえたらどんなにラクだろう。


私がここからいなくなっても、泣いてくれる人なんかいない。







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