閉じたまぶたの裏側で
それからも普段通りに仕事をこなし、自宅に帰ると引っ越しの準備をして、思っていたよりも早く時間は過ぎた。

休みの日には両親の元を訪れ、ペンションの近くに住むためにアパートを探した。

ペンションには客室と両親が生活する部屋しかないので、私は毎日自分の借りた部屋から通う事になる。

田舎なので、こちらよりも広くて家賃が安い物件が、割と簡単に見つかった。

しかも新築。

私が初めての住人になる。

一人なんだし、たいした荷物もないから、もっと狭くても良かったんだけど、窓から海の見える広すぎるその部屋は、とても気に入った。

両親のペンションまで、自転車で5分。


もうすぐここで、私の新しい暮らしが始まる。



週末を両親と一緒に過ごし、日曜の夜に自宅に戻った。

荷物を詰め込んだ段ボールが部屋の隅に積み上げられ、ガランとして寒々しい。

就職してからの6年間、住み慣れたこの部屋とも、もうすぐお別れだ。

何度も勲と抱き合って、不毛な関係に涙を流して、勲を想いながら應汰に抱かれたこのベッドも、この際だから捨ててしまおう。


誰の記憶もない新しい部屋で、誰の体温も残していない新しいベッドを買って、新しい生活を始めるんだ。





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