閉じたまぶたの裏側で
居酒屋で料理とビールを注文して、久しぶりに乾杯した。

食事をしながら、時々應汰の様子を窺った。

ずっと避けられていたし、應汰には彼女がいるはずなのに、どうして今日は私を食事に誘ったんだろう?


ある程度お腹が満たされた頃、應汰はジョッキに残っていたビールを勢いよく飲み干して、おかわりを注文した。

ビールのおかわりが運ばれてくると、それを受け取ってまたジョッキを煽り、テーブルに置いて私を見た。

「芙佳と二人になるの久しぶりだから、すげぇ緊張してる。」

「何それ…。」

私とは会っていなくても、彼女とは会ってたんでしょ?なんて言ったら意地悪かな。

「あん時…風邪引かなかったか?」

「あん時…?」

いつの事だろう。

「雨の日だよ…。芙佳、雨の中歩いて行ったじゃん。」

「ああ…うん。大丈夫だったよ。」

「そっか…。ならいいんだけど…。」

應汰は何か言いにくそうに、目をそらしてビールを飲んでいる。

「今日は彼女と一緒じゃなくて良かったの?」

自分の口から思わぬ言葉が飛び出した。

単刀直入過ぎたかな。

應汰は下を向いて前髪をかきあげた。

「……もう別れた。」

「…なんで?」

「なんで?って…。虚しくなったからだよ。いくら好きだって言われても、自分が好きじゃない女と何したって、結局虚しいだけだった。」

「……楽しそうに見えたけど。」

私がそう言うと、應汰は苛立たしげに頭をグシャグシャとかき乱した。



< 87 / 107 >

この作品をシェア

pagetop