もっとそばにいたいの 【ぎじプリ企画】
「いつも言っているだろ?自分の仕事が終わったなら早く帰れって」

「はい

「無理して残業するな」

「・・無理してません」

「してるだろ?」

「・・・」」

そう、何度も彼には言われている。みんなが帰っても仕事をし続ける私に「早く帰れ」って。
そして遅くまで残業して時々寝不足で出社した私に「バ~カ」と呆れ顔を見せて、その後「あまり無理するな」と耳元で囁く。
そんなツンデレ具合に、いつも私の胸はドキドキさせられてしまう。
その胸の高鳴りは入社して初めてこのオフィスに来た時からそうだった。
みんながバタバタと忙しく動く中で、彼だけが今と同じ壁の前で動くことなく立っていた。
静を意味するその姿は凛としていて、ため息が出る程綺麗で。彼を見る度に私は癒やされていた。
それは他の社員も同じようで、ボーッと彼を眺める人や写メを撮る人もいた。
その度にツンデレの彼は「見るなよ」とか「やめろ」と視線をそらしていた。
だけどみんなは彼がその場にいてくれるだけで満足みたいに癒やされた顔をする。
彼にはそんな魅力があるんだ。
私は彼のそばにいたくて、仕事を引き受けてまで会社に残った。彼の冷たくも時々見せる優しさが好きで好きでどうしようもないから。
そんな私の気持ちを探るかのように、顔を覗き込んでくる。
そしてさっきよりも柔らかい声で問いかけてきた。

「なあ・・お前本当に分かっているのか?」

「・・・はい」

彼の諭すような声に切なくなる。

「分かってないだろ?俺が何度言ったって聞かないし」

「・・・・」

「怒ってるわけじゃなくてさ、いろいろと心配なんだよ。お前は・・女なんだから」

急に優しい口調でそんなことを言われて、胸がキュンとしてしまった。今までにない位優しいことを言われて戸惑いまで混ざってしまう。そんな私に気付いていないのか彼は続けた。

「頑張っているのは認めるよ。でもこんな遅くまで残って、帰り道に人通りの少ないとこ歩くと思うと心配になるんだよ。朝だって疲れが取れていない顔を見れば、気になってしかたない」

それを聞いて涙がポロポロと頬に落ちていった。そんな風に思ってくれていたなんて・・。
彼は手を頬にあてて、止まらない涙を親指で優しく拭ってくれた。
胸に広がる彼への想いが抑えられなくなって、彼を見上げて瞳を見つめる。
ドキドキと強い鼓動が邪魔をして、小さな声が震えてしまう。

「そばにいたいんです。時間なんて気にしないから、もっとそばにいさせて欲しいんです」

やっとの想いで気持ちを伝えると、強い眼差しで私を見ている。

「俺に怒られても?」

「はい」

「俺を心配させても?」

「・・う~ん・・・はい、ごめんなさい」

すると彼は吹き出して笑った。
その笑顔に見惚れてしまう。だっていつもはそんな顔見せてくれないから。ずるいよ、そんな笑顔を見たらまた離れられなくなっちゃう。
でもそれは彼にはナイショ。だって言ってしまったら、その笑顔を引っ込めてしまうから。
だから今は何も言わずに私も笑った。
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